娘にねだられるままに即興で語った「おはなし」です。先にタイトルを娘が指定して、私がそれに沿った話をその場で作るという形式です。一度に三つくらい作らされるので、忘れる前に書き留めておきます。

「はっぱじいさん」

 昔、いつも緑色の服を着ているおじいさんがいた。ある日、おじいさんはおばあさんと山へ山菜採りに行った。山には山菜がどっさりあって、二人とも熱中して山菜を採った。
 だが、おばあさんが気付くとおじいさんがいない。おーいじいさんやーいと声をかけると、ほーいと返事は聞こえてくる。だけどもあちらから聞こえたと思ったらこちらから聞こえて、どこにいるのかわからない。おじいさんの服と森の葉っぱの色がおんなじで、見分けがつかなくなっていた。
 おばあさんは里へ下りて村人にも手伝ってもらったが、おじいさんは見つからなかった。
 それから何ヶ月も経ち、秋になった。おばあさんは山へ行き、また以前のようにおーいじいさんやーいと声をかけた。そうしたら、ほーいと声が聞こえる。おばあさんはまたじいさんやーいと声をかける。おじいさんはほーいと答える。赤や黄色に紅葉した森の葉っぱの中に、緑の小さな点が見えて、それが近づいてみると、相変わらず緑の服を着たおじいさんだった。二人は喜んで、揃って里へ下りていった。

「りぼんじいさん」

 りぼんを集めるのが大好きなおじいさんがいた。おじいさんは毎朝起きるとまずりぼんを引き出しから出して、綺麗に並べて、これは色がいいとか、柄がいいとか、これは長いところがいいだとか、愛でて楽しんでいた。
 その日もおじいさんは引き出しから一番お気に入りのりぼんを引っ張り出して眺めようとした。ところがりぼんはなくなっていて、どこを探しても見つからない。家中を探したら手紙が出てきて、そこには、自分はもう引き出しの中に閉じ込められる生活はいやだ、広い外の世界を見てみたい、旅に出る、りぼんより、と書いてある。
 おじいさんはびっくりして、すぐに旅支度を調えて、庄屋さんの家や、村はずれのお寺を訪ねては、わしのりぼんを知りませんか、赤と白のしましまのりぼんなんです、と聞いて回った。村の外にも出て、通りすがりの旅人に尋ねて回った。それでも誰もおじいさんのりぼんを知らないという。
 だが一人の旅人が、そのりぼんなら見たよ、あちらに行ったよと教えてくれた。おじいさんは喜んで言われた方へ向かおうとしたが、旅人に止められる。旅人は、あちらは危ない道もあるよ、おじいさんを一人で行かせるのは心配だから、私も一緒に行こうと言ってくれた。
 それからおじいさんは旅人と山を越え、谷に下り、綺麗な花が咲く野原を通って、ずんずん進んだ。いろんなくにへ行って、いろんなものを見た。それでもりぼんは見つからなかった。最後に旅人はおじいさんを家へ送り届けた。おじいさんは、りぼんは見つからなかったが、旅人にはとてもお世話になった、本当にありがとうと御礼を言い、ごちそうを作って旅人とをもてなし、好きなだけこの家に居てほしいと頼んだ。
 翌朝、おじいさんが起きると旅人はいなくなっており、代わりにずっと探していた赤と白のしましまのりぼんと手紙が置いてあった。手紙には、おじいさんと一緒にあちこち見て歩けてとても楽しかったです、りぼんより、と書いてある。おじいさんは喜んで、それからは、どこへ行くにも、必ずりぼんを服にくくりつけて一緒に出かけるようになったのだった。

「カリコリじいさん」

 いつも梅干しの種をカリコリ口の中で噛んでいるおじいさんがいた。
 ある時おじいさんがいつものように梅干しの種を噛んでいると、やめて、僕を噛まないで!と声が聞こえる。気持ち悪いと思ったおじいさんは種をぺっと吐き出した。種は僕を埋めてよ!と言うので、おじいさんは種を地面に埋めてやった。すると一晩のうちに大きな梅の木になったので、おじいさんはその木から梅を取って、梅干しにして食べ、その種をいつものようにカリコリ噛んだ。

「つぼじいさん」

 大きなつぼの中で暮らしているおじいさんがいた。寝るのも食べるのもトイレも壺の中で済ませていたが、ある日おばあさんが壺を覗き込んで、うわっ、こりゃ臭いわい!掃除しなけりゃならん!と言った。おばあさんが壺を掃除をする間、おじいさんは壺の外に出ていることになった。早く壺の中に戻りたいおじいさんはおばあさんを急かすのだが、壺の中はひどく汚れていたから掃除にもまだまだ時間がかかると言われてしまう。そこで翌日、おじいさんは町へ行って新しい壺を買ってくることにした。
 ところが久しぶりに町へ行くと新しい店もたくさんあってなかなか楽しい。そこで翌日は、おばあさんも連れていって一緒に町で過ごした。それがまた楽しかったので、おじいさんは今度は大きな大きな壺を作って、その壺の中でおばあさんと二人で暮らすことにした。今は時々壺の外に出て、町へ遊びに行くこともあるという。

「はさみじいさん」
 
 とても年取ったかにがいて、漁師たちはそのかにのことをはさみじいさんと呼んでいた。ある日子どもが来て、はさみじいさんが食べている魚を見て、自分も食べたいと思い、はさみじいさんから奪ってしまった。はさみじいさんは怒ってこどもを追いかけ、えいやっと足をはさみで挟んで、ぎゃっと悲鳴を上げて倒れたその子から魚を取り返し、ポケットから転がり落ちたあめ玉も奪ってしまった。子どもはあめ玉も魚もとられてわんわん泣きながら家へ帰っていった。

「ばりぼりじいさん1」

 ある山に、旅人を頭からばりぼり食べてしまう恐ろしいやまんばが住んでいた。
 春になって、山菜採りのおじいさんがその山へ入った。たくさんとれて、楽しくなって山奥へ入り込み、やまんばに出くわした。おじいさんは悲鳴を上げて逃げたが、やまんばはすごいはやさで追ってくる。そこでおじいさんは山菜を投げ捨てた。するとやまんばは、ぎゃあっと悲鳴を上げて、山菜怖い山菜怖いと頭を抱えた。おじいさんはその間に逃げ出したが、またしばらくするとやまんばが追ってくる。おじいさんはまた山菜を投げ、やまんばは怖がってうずくまった。その間におじいさんはまた逃げて、追いつかれては山菜を投げた。そうして村にたどり着いた。助かったと思ったが、実はそこはやまんばたちの村だった。おじいさんは村中に山菜をばらまき、それを見たやまんばたちは怖がって逃げ出した。やがてその村があった場所は山菜が山ほどとれるようになり、おじいさんは毎年そのやまんばの村の跡地で山菜をとっては、里で売るようになった。

「ばりぼりじいさん2」

 なんでもばりぼり食べてしまうのでばりぼりじいさんと呼ばれているおじいさんがいた。そのおじいさんの家の隣に、なんでもがりごり食べてしまうがりごりじいさんが引っ越してきた。二人はどちらの歯が丈夫が競ってみようという話になり、それぞれが見つけてきたものを相手に食べさせることにした。ばりぼりじいさんは山で岩を見つけ、これなら食べられんだろうと持ち帰り、がりごりじいさんは里で鉄の鍋を見つけ、これなら食べられんだろうと持ち帰った。ばりぼりじいさんもがりごりじいさんも相手の持ってきたものを見て不安に思ったが、後には引けないので、一斉に食べ始めた。
 ばりぼりじいさんが鉄鍋に齧り付くと、ばりっ、ぼりっ、という音がした。案外食べられそうだわいと思って、おじいさんはどんどんばりぼりやっていく。がりごりじいさんが岩に齧り付くと、これもがりっ、ごりっ、と音がする。なんとか食べられそうだなと思って、おじいさんはどんどんがりごりやっていく。
 ところが、実はばりぼりがりごりというのは、おじいさんたちの歯が砕ける音だった。二人の歯はぼろぼろになってしまって、何も食べられなくなってしまった。しくしく泣く二人の隣に歯医者が越してきて、新しい歯を作ってくれた。おかげで二人はなんでもというわけではないが、せんべいくらいはばりばり食べられるようになり、その後は仲良く暮らした。歯医者の噂は村中に広まって、お客もいっぱい来て、たいへん繁盛したそうだ。

「葉っぱと木とおじいさんとおばあさん」

 あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいた。二人は喧嘩ばかりしていた。ある日、二人は庭の栗の木は誰のものかで言い争った。おじいさんは自分が植えたんだからこの木は自分のものだと言い、おばあさんは自分が世話したから枝がこんなに伸びて葉がこんなに茂っているんだと言った。おじいさんは木は自分のものだから、栗の実も自分のものだと言い、おばあさんは、枝や葉は自分のものだからたき火にする、と言った。おじいさんは木を揺すって栗の実を集めたが、生ではそんなに美味しくない。そのたき火を少し貸せ、とおばあさんに言ったが、おばあさんはこの火はわしのもんじゃ、と言って貸してくれない。おじいさんは生で栗を食べていたが、やっぱり焼き栗を食べたくなった。おばあさんも、たき火もいいが栗を食べたくなった。そこで二人は仲直りして、二人で焼き栗を食べたのだった。

「ドアじいさん」

 ドアを作るのを仕事にしているおじいさんがいた。腕がよくて評判だった。ある日おじいさんが家で仕事をしていると、小さな声が聞こえてきた。見回しても誰の姿も見えないが、よくよく見ると、たたみの上にアリがいた。アリは、ドアを作って欲しいと言った。雨が降ると水が家に入ってきて水浸しになってしまうから、雨を防げるドアが欲しいと言う。おじいさんはアリをまじまじと見て、はあ、こりゃあずいぶん小さいドアが必要だな、小さな金具に小さな道具もいる。待ってろ、まずは道具を作るから。そう言って、小さなドアと金具を作るための道具を作り始めた。苦労して作ったその道具で、今度は小さな金具を作り、木を削ってドアを作った。小さな小さなドアが出来た。おじいさんはくたびれて、はあ、やっとできた、と溜め息をついた。その途端、ドアは溜め息に飛ばされて見えなくなってしまった。慌てたおじいさんはアリを呼んで、ドアが飛んでった!と叫んだ。するとアリは部屋中探して、ドアを見つけてくれた。そしておじいさんにドアの御礼を言い、家に帰り、ドアをつけた。おかげで、そのアリの家は雨が降っても水浸しにならずに済んだそうだ。