後編
晩餐会のごはん美味しかったなあ……とか、お兄ちゃんは相変わらずうるさなかったなとか、リティーヤはつらつら思い出していた。客室で南方大陸の言語を勉強している最中だったが、辞書を引いていたら南方の被服についての記述があり、あの夜着たドレスのことを思い出したのだ。真珠と宝石のネックレスと揃いのイヤリングも、ちゃんと似合っていただろうか……。
小さなテーブルに頬杖を突いて明らかにぼうっとしていたが、いつも小言を言うヤムセが特に声を掛けてこなかった。リティーヤの向かいで椅子に座って本を読んでいる。集中しているのだろう。ちら、とそちらを見た時に、晩餐会の後のやりとりまで思い出してしまい、思わず素早く視線を逸らした。
あの晩餐会から、そしてお休みのキスから、すでに数日が経っていた。
俯いた視界に、被毛のない尻尾が見えた。それはテーブルの下から覗いていた。
ミナミウミネズミは、他のネズミの仲間と同様夜間に活発に動く。
故に主に昼間に寝ているはずなのだが、大抵ベッドの下とか人間の手が届かない場所で、しかも自分に近づく気配を感じるとすぐに起きて逃げ出してしまう。
それが、今日は何故かテーブルの下でかなり無防備に寝ている。
「……?」
最初具合が悪いのかと思った。
だが、それにしてはここ数日は随分とふっくらとして毛艶も良い。
リティーヤは辞書を閉じると、屈み込み、そっと手を伸ばした。
銀色の毛は短くて、天鵞絨のような滑らかな手触りだ。
そう感じた途端、ミナミウミネズミはぱっと目を開けて身を捻ってその場から逃げ出した。
それでも、触れられた。十日ほど面倒を見たことで、少しは懐いてくれたということだろうか。
これなら、船を下りる時に捕まえることもできるかもしれない。
「先生っ、今の見ました!? あたしミナミウミネズミ触れたんですよ!」
ヤムセは一人掛けの椅子の方に座って本を読んでいたはずだった。
だがリティーヤが興奮して振り返った時、彼は本を閉じて、目も閉じていた。あれ、寝ているのかな、と思ったが、すぐにその目が薄く開いた。
「……うるさい」
声に力がない。眠いのか、と思いつつも、リティーヤは気になって、彼の額に手を伸ばした。特に抵抗なくリティーヤの手はヤムセの額に触れた。
熱い。
「先生、熱ありますよ!」
ヤムセは迷惑そうに眉を顰めて、うるさい、と再度呻いた。
「考えごとをしているのに」
「それ寝落ちしそうな人の言い訳ですよ」
「本当だ」
はあ、とヤムセは熱い息を吐いたが、熱の高さの割に他の風邪の症状がない。咳も鼻水もなさそうだし、苦しそうだが声も嗄れてはいない。
「ミナミウミネズミは南方大陸で捕獲された……」
「え? ちょっと先生、いいからベッドで寝ていてくださいよ! こんな時に……」
「いいから聞け。私もここまで近づいて自分の身に起こってようやく気付いたが、これはかなり大きな変化だ」
「変化……?」
「北方大陸と南方大陸の最大の違いはなんだ、リティーヤ」
だから講義なんかしている状況ではないのだが、ヤムセは言っても聞きそうになかったので、リティーヤは渋々答えた。
「えっと、〈昼〉魔力の有無ですね。今は北方大陸にも〈昼〉魔力が戻ってきてますけど、それでも南方大陸のが強いですよね」
「そうだ。〈昼〉魔力は北方大陸に長い間欠落していた要素だ。この不均衡は北方大陸近海でも同じで、北方大陸から離れるにつれて魔力は安定していく。この不均衡は徐々に釣り合いが取れつつあるところだが、それは三ヶ月前に始まったことであり、まだ魔力にはかなりの偏りがある」
「そう……ですね」
「順調ならば、あと四日で南方大陸の港だ」
リティーヤも彼の言わんとするところに気付いた。
「南方大陸とその近海は、北方よりも〈昼〉魔力が濃い……!」
「そうだ」
ヤムセがだるそうに溜息を吐いた。
「魔術師は、どうもその変化に対応するのに少し時間がかかるらしい」
「えっ、でもあたしは――」
「おまえは元々〈昼〉魔力持ちだ。耐性がついている。そしてそのミナミウミネズミも、南方大陸に近づいた今はおとなしいのに、北方大陸で船から降ろそうとした時は捕まえられなかった。飛び回り、警戒していた。〈昼〉魔力の濃度差に影響され、異常な興奮状態に陥っていた……というところだろう」
「あっ!」
ミナミウミネズミは南方大陸の固有種だ。〈昼〉魔力が濃厚な場所にしか生息していなかった種が、まったく環境の異なる土地へ運ばれてきた。北方の魔術師が南方の〈昼〉魔力に触れて倒れるように、ミナミウミネズミは〈昼〉魔力が極端に薄い北方で興奮状態に陥ったのだ。そして、今はこうして〈昼〉魔力に再び触れて元の性質を取り戻しつつある。この小さな身体でそんな激しい変化にさらされ、生きているだけ幸運だ。
生きているだけ――。
リティーヤはヤムセを見つめた。椅子にくたりと体重を預けたその姿を見て、声が上手く出なくなる。
「せ、先生は大丈夫なんですか……」
「そのうち慣れる。死ぬようなものならさすがに騒ぎになっているはずだ」
それはそうだ。南方大陸に行った魔術師はこれまでも少数ながらいたはずだし、その全員が倒れて回復しなかったら、ヤムセの情報網にも引っかかっていたはずだ。そうではなかったのだ。
リティーヤは自分にそう言い聞かせ、とにかく、とヤムセの手を取って立ち上がった。
「先生は寝ましょう!」
ヤムセは億劫そうにリティーヤを見上げ、それでも小さく頷いた。
あまり弱みを見せない人だ。
というか、リティーヤが知る限り、魔術師は皆そういうところがある。多くの魔術師は組織に所属し寒冷化の謎を解くという目的のために他の組織と鎬を削ってきた。組織の中においてもそれはあまり変わらず、リティーヤとヤムセの所属していた《学園》でも、所属魔術師たちは研究室や委員会単位で敵対する相手チームを陥れ、あるいは出し抜き、成果を競い合っていた。
ヤムセの経歴から考えても、生まれから考えても、弱みなんか見せていたら命が幾つあっても足りない。
だから、熱を出したヤムセが素直に自分の目の前で眠っているのが、リティーヤには不思議だった。
具合が悪いのだから余計眉間に皺を寄せていそうだがそういうこともなく、むしろ穏やかな感じさえする。顔色は悪いし寒そうなのでリティーヤの分まで毛布をかけてやっているのだが。
そのうち慣れる、と言ってヤムセが眠りについて、まる一日以上が経った。熱が下がる気配はなく、リティーヤはだんだん不安になってきた。他人の安定した魔力に触れると乱れた魔力も安定していくものだから、要するに添い寝でもした方が早く容態が快方に向かうと思うのだが、なんだか色々なことを考えてしまって実行には移せていない。
ヤムセも言っていたが、他の魔術師たちだって、同じような体調不良をそれなりに切り抜けて無事に回復しているはずなのだから、たぶんリティーヤの助力は必要ない――はずだ。
それに何より、物理的な距離を勝手に縮めるのは、正直怖い。
この程度なら問題ないだろうと、リティーヤはヤムセの額に時々手を置いて、魔力の働きを感じ取ろうとする。まだ彼の身体は〈昼〉魔力に不慣れなのだろうと思う。焼けるような魔力を感じ、リティーヤはせめてその魔力を和らげようと努める。溶岩のような熱が夏の木陰程度の温度になるように、丁寧にヤムセの魔力をなぞり、自分の魔力で教え諭す。穏やかに、柔らかに……そう努めているうちに、ヤムセの額を優しく撫でていた。
気付いて自分の手を自分でたたき落とす。
「……邪念はないですよ!?」
誰に言われたわけでもないのに、リティーヤは一人でそう呟いて、手を引っ込めた。するとヤムセの呼吸が少し乱れる。触れていた方が楽なのだと気付いて、リティーヤは躊躇いながらもまた手を額に置いた。そっと、手と魔力で、彼を撫で付ける。
また、呼吸が穏やかになった。
ヤムセの表情が緩んだのが嬉しくて、リティーヤの表情まで緩んでしまう。
ヤムセが細く目を開けた。
「あ、先生! 具合はどうですか」
「……大丈夫だ」
いつもより随分とぼんやりとした目でリティーヤを見て、ヤムセは呟いた。
「美しかったな」
「……っ、えっ?」
「晩餐会の話だ」
そう言ってまた目を瞑る。再びごく微かに規則的な寝息が聞こえてきた。
晩餐会――あの夜のようなドレスのことか。確かにあれは美しかった。ネックレスの淡いブルーの宝石も相まって、星空のようだった。
リティーヤはヤムセの熱が移ったみたいに感じていた。額に触れた掌や指先は勿論、顔も耳も熱い。
「ドレスのことですよね……?」
しぼり出した問いに、ヤムセは応えてくれなかった。
顔を見ているのも恥ずかしくなって、毛布に覆われた彼の胸元に顔を埋める。毛布越しに、彼の規則的な呼吸を感じる。胸が上下している。
だが、その直後、ドアをノックする音が響き、リティーヤは飛び起きた。いつも食事を持ってきてくれる人とは、ノックの位置も叩き方も違う気がした。いつもの人はもっと控え目だが――こちらはより力強く、遠慮がない感じがした。
「俺だ」
警戒していたリティーヤは、その声を聞いて、ドアに飛びついた。
「お兄ちゃん!」
ドアを開けるとそこに立っていたのは、ファルクロウだった。今日はあの煌びやかな儀礼服ではない。袖を通さずに黒っぽい色の上着を肩に引っかけ、いつもの明るい表情で笑っている。
「リティーヤ。変わりないか?」
「あっ、うんっ! お兄ちゃんも……」
元気そう、と言いかけて、リティーヤは言葉を飲み込んだ。ファルクロウの顔が見る見る強張っていったからだ。
「お兄ちゃん?」
小首を傾げるリティーヤの顔をまじまじと見つめて、ファルクロウは心配そうに言った。
「おまえ、顔赤いぞ。熱でもあるんじゃないのか?」
「えっ? ああ、ないよ、ないない、あたしじゃなくて――」
「それにその格好……」
リティーヤは自分の服装を見下ろした。そういえばもうそろそろ寝ようと思っていたから、寝間着にショールを羽織っただけだった。少しだらしない格好だったな、と反省する。髪も先程ヤムセの胸元に擦りつけて乱れているし――。
そこでようやく、ファルクロウの顔が強張っている理由に気付いた。
「あっ! なんでもない、この格好は寝るところだっただけだからね! いや寝るって言っても勿論ベッドは別だし、疚しいことは何もな……」
気配を感じて振り向くとヤムセが起き上がったところだった。さすがに来客に気付いて覚醒したのだろう。熱でだるそうなヤムセを見て何を誤解したのか、ファルクロウがいきなり抜刀した。船内でも彼は古王国の特務警察部の捜査官として武器を携行することができたのだろう――いやとにかくまずい、とリティーヤはファルクロウの腕にしがみついた。
「ほんっとうに何もないから! ほらあの騒ぐと迷惑だしっ」
「せめて婚約しろとあれほど……!」
「だから違うってば~!」
ファルクロウがリティーヤを振り払って部屋に押し入った。
よろけながらもリティーヤは再びヤムセの方を見やった。ヤムセはベッドの上で額を押さえていた。頭が痛いのだろうか? 何事か呻いているなと思ったら、彼は急に顔を上げ、そこでリティーヤも気付いた。魔力が急速に膨らんでいる。〈昼〉の――
狼を思わせる鋭い目が、ぎらりと光った。
「うるさい」
ヤムセがそう言った瞬間、部屋が目映い光で満ちた。
リティーヤは咄嗟に目を瞑っていたものの、光が消えた後も、しばらくは目がチカチカしていた。涙を拭って、ようやく回復した視力でヤムセを睨みつけると、彼自身もぽかんとした顔をしていた。
「先生、何するんですか!」
幸いドアはリティーヤが寸前で閉めていたから光は室外には漏れていないだろう。それでもあまり騒ぐのも悪いので、怒鳴りながらも声量は抑えた。
「今のは……〈昼〉魔術か」
「そうですよ。たぶん、北方大陸から充分に離れたから、〈昼〉魔力が濃くなって、普通に〈昼〉の魔術を使えるようになったんです」
魔術の系統は大きく分けて、光と熱と炎を生む〈昼〉、静寂を生み熱を奪う〈夜〉、流動と変化を司り肉体を支配する〈流れ〉、物を淀ませ人の心を見透かし操る〈夢〉の四種だ。
このうちの〈昼〉魔術は、北方大陸からは長らく失われていた。〈昼〉魔力を持つ石板が破壊されたからなのだが、それはついに取り戻され、北方大陸にも〈昼〉の魔力と魔術が戻りつつある。
それでも、変化はゆっくりで、まだ北方大陸では〈昼〉魔術は使えない。
南方大陸はそうではない。
南方大陸に近づいたことで、〈昼〉魔術が使えるようになったのだろう。
「あれ、先生体調どうですか?」
「……安定したようだ」
リティーヤが見たところ、ヤムセの魔力は彼の言葉通り安定して、穏やかなものになっている。
「へ~、一度魔術を使うと安定するんですね。どういう作用なんでしょうねえ」
「おそらく普段我々が無意識下で制御に置いている魔力が……」
「待て! 何事もなかったかのようにこの状況を流すな! クソ……」
ファルクロウはまだ目が痛いのか、椅子に座り込んで眉間を押さえている。
ぶつぶつと怨嗟の声を漏らす兄をリティーヤは睨めつけた。
「いきなり武器抜いたのはお兄ちゃんでしょ。誤解だって言ってるのに!」
「誤解も何も男女が寝間着で……」
「だから単純にもう寝るところだったの! 別々のベッドで!」
リティーヤは心底面倒だなと思いながらも、ヤムセが熱を出したことも含めて、〈昼〉魔力の話を兄に一通りした。仕事柄魔術師や魔術にも造詣が深いファルクロウは物わかり良く話を聞いていたが、聞き終えるとしばし瞑目して考え込み、言った。
「やっぱりリティーヤは俺の部屋で保護する。俺が守ってやる。今日は元々その話のために来たが、ヤムセが体調不良ならなおさらだ」
「体調はもうよくなったみたいだよ。それに先生のとばっちりで危険な目に遭うんだから基本的には先生に努力してもらうよ。お兄ちゃんだって先生に責任取ってほしいんでしょ?」
「それはそうだがっ!」
ファルクロウが何故か悔しそうにリティーヤの理屈を認めた。
「俺もちょっとくらいリティーヤを守りたい! ピンチを救って感謝されたいという憧れがある!」
「……とにかく、あたしはここに残るからね。こんな状態の先生を一人残していくのは可哀想だよ」
「や、優しい……」
兄に褒められてリティーヤはふふんと誇らしげに胸を張った。
ヤムセはずっと呆れたような顔で何か言いたそうにしていたが、話が逸れたところで咳払いをする。
「話はわかった。用が済んだなら帰ってくれ。もう休みたい」
ファルクロウは不満そうだ。まだ腰を上げる様子はない。
「婚約もしていないんだから絶対に手を出すなよ……」
「出さない」
「婚約するなら俺が証人になるからな……」
「わかった」
「婚約……」
「しつこい」
ファルクロウは矛先をリティーヤに変えた。
「そもそも、リティーヤはこいつと今みたいな中途半端な関係でいいと思っているのか?」
「え? ああ……でも、あたしが一人前になるまでは恋人的なものは全部無しって話になっちゃって……」
「なっちゃってってなんだ! おまえの意思はどこにあるんだ?」
「その……最終的にはそういう関係になりたいとは思うけど、一線引きたい先生の気持ちもわかるというか。勉強は勉強で真面目にやらないと、恋人として中途半端なのより、魔術師として中途半端なのの方がいやだから」
「…………」
ファルクロウは眉間に皺を寄せて腕を組んだ。かと思うと歯を食いしばり、テーブルに突っ伏した。
リティーヤが心配になって声をかけようとすると、ファルクロウは重たげに身体を起こした。
「……わかった。今日のところはこれで帰る」
先日の晩餐会で二人で話し合うと言って別れたから、その話し合いの結果を知りたかったのだろう。で、婚約するのなら、自分が立会人になるのだと意気込んでいたのだ。たぶん。
「お兄ちゃん」
なんだかんだ言って、ファルクロウはリティーヤのことを想ってくれているのだろう。リティーヤは兄の背に手を置いた。ファルクロウは身じろぎし、リティーヤを見て、少し無理をして笑った。
「幸せに生きろよ」
兄の想定していたような『幸せな生き方』ではないことが申し訳なくて、それでも彼がそう言ってくれたことが嬉しくて、リティーヤは胸が苦しくなった。うん、と頷くと、ファルクロウは力強く抱き寄せてくれた。
その力の強さに、これが兄との生涯の別れかもしれないと唐突に気付いてしまった。
リティーヤも、自分なりの力で彼の身体を精一杯抱きしめた。
銀色の毛玉が、リティーヤの膝の上で上下している。
小さく丸まったミナミウミネズミだ。
生まれ故郷である南方大陸が近づくにつれて、ミナミウミネズミはどんどんおとなしく、動きが緩慢になっていった。こんなにのろくて自然の中で生き残れたのかと不思議だが、南方大陸の中でも特殊な環境にしか生息しておらず、そのため捕食者がほとんどいないらしい。エネルギーを消耗しないよう、一日のかなりの時間を寝て過ごす。
頻繁に食事をし、駆け回っていたのは、北方の魔力環境が合わず、行動に異常を来していたのだ。
「そっと……」
とはいえ起きると逃げ出すかもしれない。リティーヤはそうっと慎重にミナミウミネズミを籠に入れた。小さな鳥籠で申し訳ないが、本来の生息地へ届けるためには船を下りてからも少し移動しなければならない。外界の刺激を避けるため、籠の外から布で巻く。
「準備はできているか」
ヤムセが部屋に戻ってきて、そう声をかけた。リティーヤは頷いて立ち上がる。リティーヤの荷物はヤムセが運んでくれたので、リティーヤはミナミウミネズミの入った籠を両手で抱えた。
二週間滞在した部屋に別れを告げ、廊下に出ると、ヤムセが通路で待っていた。
「無事にここまで来ましたね」
「まだわからない」
いつものように難しい顔でそう言うヤムセを見上げ、リティーヤは呆れた。
「でも嵐も遭わなかったし、そんなに揺れが酷い時もなかったし、こうしてミナミウミネズミも外に出してあげられますよ」
ヤムセはリティーヤを一瞥した。……ちょっと落第生を見るような目をしていた。
「だからだ」
……何か自分は忘れているのか? でもこうしてミナミウミネズミも保護して、船も着いて……兄は……まあ、兄はちょっとうるさいが、ちゃんとお別れもできた。他の客があらかた下船した今、リティーヤたちは人目に触れず下船する――何かまずいことがあるだろうか?
その時、ふと背後からの物音に気付いてリティーヤは振り返った。男が通路の後方にあるドアを開けてて出てきたところだった。きちんとした格好からして上層階の客室付きの従僕らしい。彼はリティーヤに気付いて愛想よく声をかけてきた。
「お客様? 何かお困りのことがおありですか?」
すでに一般客の下船が完了した頃なのだ。客室のあるエリアも掃除を始めねばならないし、リネン類は取り替えて洗濯物は洗濯屋に出さなければならない。勿論、飲料水や食料、燃料の補給も必要だ。客には早く下りてもらいたいだろう。
「お荷物お手伝いいたしましょう」
そう言って、男はリティーヤが抱える鳥籠に手を伸ばした。
「あっ、ありがとうございます」
リティーヤは笑顔で礼を言った。続けて、でも大丈夫ですよ、と言おうとした。
だが、すぐに笑顔は凍り付いた。匂いがしたのだ――甘い香料の匂いが。
《ラガロの飴》からのカードについていたものと同じだ。
リティーヤの変化を見て、男は勘づかれたことを察したのだろう。強引に鳥籠を摑むと反対の手でナイフを取りだした。刃先はリティーヤに向けられている。
えっ、と声を上げる間もなかった。リティーヤは摑んだ籠を介して半ば男に振り回されながらも、精神を集中させ一瞬で魔力を解き放つ。
「光よ!」
男は悲鳴を上げた。強烈な光が目を閉じる間も与えられずに放たれたのだ。ナイフを振り回したらしく、鳥籠をに刃を叩きつけた振動がリティーヤの手にも伝わってきた。
しかしすぐに男は静かになった。光が消えておそるおそるリティーヤが目を開けると、男はその場に倒れて動かず、近くにはヤムセが屈み込んでいた。
ヤムセは男の脈を取っている。仏頂面でリティーヤを見やる。
「……というわけだ」
「完全に忘れてました……」
リティーヤは長く息を吐いてその場に座り込んだ。倒れた男の様子をこわごわ見る。リティーヤが放ったのは光を生み出すだけの魔術だから、男が倒れているのは別の理由からだろう。たぶん、男が光に目が眩んでいる隙に、ヤムセが接近して気絶させたのだ。
「でも、どうしてこの人は晩餐会じゃなくてここで襲撃してきたんでしょう……」
「晩餐会への呼び出しは我々を外におびき寄せるための罠だ。晩餐会で捕まったのは、我々を会場に足止めする役割の者だろう。留守中我々の部屋に人が入ろうとしたらわかるように魔術の罠を仕掛けていたが、それが作動していた」
「……なんでそういうことを言わないんですか!?」
晩餐会の後、部屋に戻った時に気付いていたというのなら、リティーヤに言うタイミングはいくらでもあったはずだ。
「入ろうとした痕跡があっただけで侵入を許したわけではない。その後も機を窺っていた様子はあったが……」
「先生が倒れている間にあたしが襲われたりしてたかもしれないんですよ!」
ヤムセは不服そうに眉を顰めた。
「近づけば今のように匂いでわかる。だいたい、おまえが後れを取るような相手じゃなかっただろう」
「し、信頼は嬉しいですけど……」
少しは認めてもらえているのかと嬉しくなってしまったが、あまり顔に出さないようにしてヤムセを睨みつけた。
咄嗟に光で相手の目を焼いたのは数日前のヤムセの〈昼〉魔術が印象に残っていたからだ。何しろ船内で炎を使うわけにいかないし、光なら万が一無関係な人間を巻き込んでもちょっと眩しいだけで時間が経てば回復する。
とはいえ、北方で使った時よりも威力が強い。どうやら〈昼〉魔力が周囲の環境にあるおかげで、リティーヤの魔術も強化されているらしい。
「体調はどうだ?」
リティーヤは以前は〈昼〉魔術を使うたびに倒れて寝込んでいたのだが、今回は特に問題はなさそうだった。やはり環境の変化が大きいのだろう。
「大丈夫です。先生にも私にも、影響出ているんですねえ。それで、えーと、その人は生きているんですか?」
「眠らせただけだ。……少し効きが悪かった。薬のせいだな」
「あ、例の幻覚剤ですか? そういう効果もあるんですね」
「聞きたいことがあるから起こす。気を付けろ」
ヤムセが男の顔に手をかざした。閉じた瞼の上に振れると、その瞼がけいれんし、男は目を開けた。まだ身体が動かないのか、ぎこちなく目だけで周囲を見回す。
ヤムセは男の顔を見据えて言った。
「狙いはネズミか?」
ネズミ? とリティーヤは内心で声を上げた。ネズミというのは、勿論リティーヤが抱えているこの籠の中のミナミウミネズミのことだろう。これを狙った……?
「あっ! そうか、確かにこの人、先生じゃなくてあたしが持ってる籠を狙ってた!」
思わず声に出していたリティーヤを、ヤムセがじろりと見やって黙らせる。リティーヤは邪魔にならないよう口を噤むが、頭の中で考え続ける――そう、狙いはリティーヤが持つミナミウミネズミ。それを奪おうとしていた。
ヤムセを晩餐会に呼び出したのも、彼を部屋から引き離すためだ。部屋に侵入しようとして魔術によって断念し、機会を窺っていたもののファルクロウの訪問などで諦め、ミナミウミネズミが出てくる下船の時を待っていた。匂いを覚えていたから防げたものの、それがなかったらリティーヤは気付かず籠を奪われていたかもしれない。
だが、何故ミナミウミネズミを狙ったのか?
男はヤムセを睨むだけで答えないが、問いかけへの反応から得られる情報もある。しばらく男を見据えた後、ヤムセは呟いた。
「《ラガロの飴》の原料は未解明だが、特殊な処置を施した動物の分泌物が含まれると聞いたことがある」
「はあっ!?」
リティーヤは大きな声を上げてしまった。それは捕まった男の方も同様で、表情が急に強張った。それは一瞬だったが、ヤムセには充分だった。
ヤムセがもう一度手をかざした。再び魔術を使われることを悟った男は憎々しげにヤムセに怒鳴った。
「貴様ら《学園》の魔術師が《北》の安寧を破壊したのだ! 我らは冬の守護者として古き秩序を取り戻す! 栄光ある先人の戦列に加わることができるのは我ら……のみ……」
男は抵抗しようとしたが、結局意識を手放した。
ヤムセもリティーヤもすでに《学園》の魔術師ではないし、寒冷化を維持したかった《ラガロの飴》の理念は受け入れられないが、とにかく襲撃者は気絶して、他に仲間がいそうな様子もなかった。
「ちょっと先生、今のなんですか? 動物のって……まさか……」
「特殊な香木のみを餌として与えて育てたミナミウミネズミの香腺からは、クリーム状の分泌物が採れ、昔から希少な香料として利用されてきたが、薬として利用する地域もあったという」
ヤムセは講義でもしているかのようによどみなく答える。
「色々あってそのやり方での香料の採取自体が禁じられたが、密造業者はいる。今回は、香料では無く、その香料を作り出す生体の方を密輸しようとしたのだろう。生体管理がうまくいけば、分泌物を長期間にわたって採取することが可能だ」
「その香料が薬の材料にもなっていたってことですよね……あーっ! じゃあ、この子を密輸しようとしたのって元々《ラガロの涙》なんだ……」
「そういうことになる。おそらく、組織が壊滅し、生き残った彼らは密輸ルートも何もかも失い、生体密輸の賭けに出て、失敗した。渡航を手配したトラリズ親子ともトラブルになったのだろうな。そうでなければ我々ではなく彼らがこの部屋を使い、問題なくミナミウミネズミを回収できたはずだ」
「話はわかりますけど、ここまで来たなら繁殖地までもう少しですよ。繁殖地まで行けば捕まえられます。こんなに動きもトロいし」
リティーヤは籠を覆う布をずらし、抱えた籠の中を覗き込んだ。騒ぎになった今でこそ目を開けて周囲を警戒しているようなそぶりを見せているが、動きはゆっくりとしている。
「特殊な育て方をしなければ香料は採れない。繁殖地で捕獲して育てるにしても年単位で時間がかかる。そして、組織が壊滅して半年以上が経つ。彼らはすでにある原材料を使い切ったか、それに近い状態にあるのだろう」
ヤムセは男に憐れみに似た目を向けた。男から漂う甘い匂いが鼻についたが、それはミナミウミネズミの匂いとは似ても似つかない。精製の過程で変化するのだろう。
「《ラガロの飴》は依存性が高い」
組織が壊滅し、密輸ルートを失い、残る原材料も少なく、唯一残されたのはこの生体のみ。リティーヤは巻き込まれたこのミナミウミネズミを憐れに思う。長い年月人の手で育てられたとなれば自然に帰すのも難しいだろう。ミナミウミネズミが再び丸くなって目を閉じるのを見届けてから、また布で籠を覆い、倒れた男を見下ろす。
「この人どうするんですか?」
「このままファルクロウに引き渡せばいい」
ヤムセがそう言い終える前に、ばたばたと足音が聞こえてきた。数名の部下らしき男女を引き連れたファルクロウだった。
ファルクロウは転がる男を見て、それからリティーヤの様子を素早く確認した。
「大丈夫か、リティーヤ」
「う、うん」
ファルクロウが合図をすると、後ろから追い付いた部下が男を手早く縛り上げ、猿ぐつわを噛ませた。
「寝ているだけだ。魔術が効きにくい。直に起きる」
「わかった。おい、手枷もしろ」
ファルクロウが部下にそう注意している。両脇を抱えて連れて行かれる男を見届けると、彼はヤムセに向き直った。
「目星はつけて尾行していたんだが、下船のどさくさに紛れて撒かれた。悪かったな」
「いや。晩餐会では助かった」
ヤムセとファルクロウの様子を見て、リティーヤはハッとした。
「お兄ちゃんももう一人《ラガロの飴》が残ってるって気付いていたのね!?」
思わず声が大きくなるが、仕方ないだろう。兄とは晩餐会の後も顔を合わせている。彼の方から部屋にやってきたのだ。あれは、リティーヤたちが狙われているとわかってやってきたのだ。
「部屋にわざわざ来たのって、あたしと先生の部屋を分けて先生だけ狙わせようって魂胆だったんでしょ! だって、捕まえたもう一人を調べたらすぐに同行者がいたことはわかるもん。それで、先生が弱ってるタイミングであたしと部屋を分けてわざとそいつに狙わせようって考えたんだ!」
「そこまで姑息じゃない! ヤムセが体調を崩しているとは知らなかった。単にヤムセを餌におびき寄せるにはおまえの身が不安だったから……」
「ほらあ!」
「う……」
ファルクロウは助けを求めるようにヤムセを見た。ヤムセは迷惑そうな顔をしていたが、溜息を一つ吐いて、リティーヤの持つ籠の覆いをずらした。
「やつらの目的は私ではなくこちらだった」
ミナミウミネズミはまだ籠の隅で丸くなって眠っている。
「ミナミウミネズミだ。南方大陸の固有種で国外への持ち出しは禁じられている。《ラガロの飴》が密輸しようとしたが、我々の部屋に逃げ込んできたので保護していた」
なんだか事実と異なる部分がある気がするが、トラリズ家の話は出さない方がいいとの判断だろう。ファルクロウは興味深そうにミナミウミネズミを観察し、懐から手帳を出して何か書き付けた。
「港に着いたらここへ行け。レッドロック家のファルクロウに言われて来たと言えば大丈夫だ」
ファルクロウは手帳から一ページ破り取ると、ヤムセに渡した。
だが、急にファルクロウはリティーヤを見やって気まずそうな顔をした。まだレッドロック家に養子入りしたことを気にしているらしい。リティーヤはとりあえず文句の続きを言った。
「言っておくけどね、あたしが腹立てているのはお兄ちゃんがあたしにも何も説明してくれてなかったことなんだから! 他のことで気まずくなるくらいなら今の問題について反省してくれない!?」
「わ、わかっている……」
兄妹のやりとりをよそに、ヤムセは渡された紙片を観てぽつりと言った。
「遠いな……」
「文句言うなよ。俺だって南方大陸にそんなに伝手があるわけじゃない。固有種の研究所の研究者だから、入国審査の時とか、何かあったらそいつの名前を出せばいいからな」
ヤムセは頷いて紙片を懐に入れたが、リティーヤはまだ怒っていた。
「先生もわかってますか? あたし、お兄ちゃんだけじゃなくて先生にも怒ってるんですけど!?」
リティーヤはぎゃんぎゃんと文句を言い続けたが、ヤムセはリティーヤとファルクロウを置いてさっさと歩き出してしまった。リティーヤは慌ててその後ろを追う。
「先生!?」
怒鳴るように呼びながら隣に並んで顔を見上げる。知らんぷりするヤムセが憎たらしい。
「おまえに言えば顔にも態度にも出るだろう」
ヤムセは睨まれた末にそう言った。
「バスルームを使う時は外に出る。おまえが周囲をそれまで以上に警戒する様子を見れば、相手も警戒して諦めるかもしれない。何もかも教えてもらいたいなら、なんでもかんでも態度に出るところをなんとかしろ」
「うぐっ……」
「リティーヤはそこが可愛いんだぞ!」
ファルクロウが抗議するように後ろから追いかけてきて言った。
「こいつはやめておけリティーヤ、おまえの良いところを全然わかってないぞ!」
「ちょっとお兄ちゃん黙っててくれる!? そもそもお兄ちゃんだって先生のこと言えないでしょ!」
ファルクロウは叱られた犬みたいな顔をして、もごもごと口の中で言い訳を呟いた。
「俺がおまえを守れれば思って……」
だが、急に立ち止まると、
「すまなかった」
と謝った。
結局、彼は古王国の――そしてレッドロック家の人間で、職務を遂行するためにリティーヤに明かせない事情もあったのだ。リティーヤもそれはわかっていた。
タラップに通じるドアは開け放たれている。そばにはヤムセが立ち止まり、リティーヤを待ってくれている。リティーヤは立ち止まった。ずっと喧嘩を続けていることはできない。自分たちにも、ファルクロウにも、事情がある。
だから、リティーヤはファルクロウの方へ駆け寄ると、抱きしめて兄の頬に自分の頬をくっつけた。離れがたくなる前に、さっと離れる。
「……またね、お兄ちゃん。あの……お兄ちゃんがあたしのこと思ってくれてるのは、わかってるよ」
開け放たれたままのドアから風が吹き抜け、リティーヤの金髪を撫でた。同じ風がファルクロウの額をくすぐった。前髪に隠れていた目がリティーヤを見つめて、諦めたような、穏やかな目で微笑んだ。
「またな、リティーヤ」
「ん……」
ファルクロウの手が伸びて、頭を撫でられる。子供の頃を思い出すその感触に、堪えていた涙がまた溢れそうになる。
その時、通路の奥、彼の部下たちが男を連れて行った方向から、何やら騒ぐ声が聞こえてきた。ヤムセはそちらを見やって言った。
「薬のせいで魔術が効きにくいんだ。それにどうやら興奮作用があるらしいな」
「しつこいな、あいつ……」
ファルクロウがうんざりした顔で言い、そちらへ向かった。大丈夫かな、と心配するリティーヤを置いて、ヤムセはとタラップを下りていく。
「先生!?」
「心配するな。ファルクロウなら大丈夫だ」
リティーヤはもう一度ファルクロウが消えた方を見た。突然、ファルクロウが通路の奥から顔を出した。笑顔でリティーヤに手を振る。その直後、ごとっと件の男が床に倒れるのが見えた。うまいこと失神させたらしい。自分たちに似合いの慌ただしい別れに思えて、リティーヤは笑ってしまった。
通路を抜け、タラップを下りる。地面が揺れないことに驚いて、何故だかよろけそうになってしまう。吸い込んだ空気は湿っていて、港町特有の潮の匂いがする。肌を焼く日差しが北方よりかなりきつい。
「先生!」
タラップを下りた場所は混雑していて、すぐ先にいたはずのヤムセとはぐれそうになっていた。リティーヤは声をかけて大きく手を振った。ヤムセも気付いてやってくる。
「先生は背が高くてこういう時便利ですねえ」
「行くぞ」
ヤムセだって初めての土地だろうに、あまり迷うそぶりもない。入国審査を済ませたら、ヤムセの知り合いがいるという案内所へ行って移動の準備だ。ファルクロウが紹介してくれた研究所はちょっと遠いが生息地の近くだというから、きっとこの人慣れしすぎたミナミウミネズミのことも任せられるだろう。目的地までの移動手段や荷物を整え、研究所へ――というのが、この地での最初のフィールドワークになる予定だ。ヤムセのことだから、ついでに通訳とか護衛とか、何らかの仕事をこなすかもしれない。
「また機会あるかなあ……」
荷物に皺にならないようにしまいこんだドレスを思い出す。
ヤムセがちらりと見てきたので、ほら、と説明する。
「トラリズ家にプレゼントしてもらったやつですよ。先生だって美しかった、なんて言ってくれたでしょう」
「……? 言ったか?」
「あー、意識あんまりはっきりしてなかったかもしれないですね」
確かに正気では言わなそうだ。
「まあこれはあたしの胸の中に留めておいてあげますよ」
「言ったとしても、別にドレスのことではないだろう」
「……ん?」
リティーヤは思わず立ち止まっていた。ヤムセが一二歩先を行って、リティーヤがついてこないことに気付いて振り返る。
照れるでもでもなく、ただリティーヤを見つめている。
リティーヤ、と彼が名前を呼んだ。
「全部おまえのものだろう。ドレスも、装飾品も」
称賛の言葉も。
彼がそう言いかけてやめたのがわかった。恥ずかしいとかではなく単に言わずともリティーヤが理解したことを悟ったからだろう。
「ひょえ……」
理解した途端、リティーヤは恥ずかしくてヤムセの顔を見られなくなってしまった。
不自然に俯いてヤムセを追い越すと、すぐに声をかけられる。
「そっちじゃないぞ」
ヤムセの冷静な言葉に少し方向を修正し、それでも頑なに彼の顔を見ないようにして、ずんずん大股で歩く。
並んで歩くヤムセが少し笑った気配があった。なんでもかんでも顔と態度に出るリティーヤを面白がっているのだろう。
リティーヤは息を思い切り吸った。何か文句を言おうと思って。
屋台のそばで吸い込んだ空気は、肉と脂、それに見知らぬ香辛料の匂いがした。
おわり
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